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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「竹内君が今何をしていると思う?」

「存じません」

「大阪で会社の専務取締をやっている」

「はゝあ」

「国語の教師として有望な人だったが、厭応なしに実業界へ入ったんだ。細君の親父さんが死んで、長男が未だ子供だから、後見人が必要ってことになった。仕事は蝙蝠傘の骨を拵える会社だ。竹内君は我輩のところへ相談に来て、何うしたものだろうと意見を求めた。我輩は一も二もない。『行き給え』と言った。竹内君は失望して、『私は矢張り教師として不適任でしょうか?』と訊いた。しかし適任不適任の問題じゃない。国語の教師の掛替はあるけれど、後見人の掛替はない。細君の里に同情がないなら兎に角、ある以上は犠牲の問題だ。その辺の道理を説明したら、納得して大阪へ行った。以来何年だろう? もう十年ぐらいになるよ」

「然うでしょうな」

「竹内君はあゝいう熱心家だから、やり始めると何でも一生懸命だ。経営宜しきを得て、親父さんの代よりも発展した。先年竹内君の長男が○高へ入ったので詳しい消息が分ったが、同業会社では大阪一だそうだ。尤も蝙蝠傘の骨を拵える会社なんてものは沢山もあるまいけれど」

「妙なものですな」