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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

思い合っている二人が水入らずで話せるのは奥田君の入浴中丈けだ。それに打っつかったことが春から数回あったきりで、他に一切機会がない。

「道子さん」

「はあ」

「二百三高地が好く出来ました」

と堀尾君は久しぶりで周囲憚らずに諢って見た。

「あら! オホヽ」

「本当に」

「厭よ。そんなに御覧になっちゃ」

「壮観です」

「高過ぎて?」

と道子さんは庇髪にソッと手を当てた。未だ高いのが流行っている頃だった。

「いゝえ」

「然う?」

「時に道子さん」

「何あに?」

「僕、イヨ/\帰ります」

「あらまあ!」

「仕方ないです」

「いつ?」

「明後日」

「急ね」

「えゝ」

と堀尾君は道子さんの顔に浮んだ真剣の表情を頼もしく思った。

「秋までもうお出にならないんでございましょう?」

「えゝ。就職口でも定れば兎に角」

「…………」

「当分お別れです」

「急に御予定をお更えなすったのね?」

「郷里から煩く言って来るものですから」

「詰まらないわ、私」

と道子さんは独り言のように呟いて俯向いてしまった。

「しかし道子さん」

「…………」

「道子さん」

「はあ」

「あなたも、もう間もなくお帰りでしょう?」

「それは然うですけれど」

「十五日頃ですか?」