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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「確定はもうしている」
「それじゃ後から詳しく話すことにして、君の方を先に承わろう」
「まあ待ってくれ給え。道子さんにも直接関係のあることだから」
と堀尾君はいつもと違って、見識に超越していた。明日は一日支度で忙しい。夜分は同郷の先輩岡村さんを訪れる。して見ると、今晩で当分お別れになる。但し明後日は日曜だ。見送りということを念頭に置いて、然う定めたのである。
道子さんがお茶を持って上って来た時、奥田君は、
「お前もこゝにいなさい」
と命じた。
「お邪魔じゃございませんの?」
「差支ない。堀尾君がこれから芽を吹く」
「はあ?」
「景気の好い話をするそうだから、聞いていなさい」
「それでは承わらせて戴きますわ。まあ、お茶をお一つ」
と道子さんは如才なく、そのまま坐り込んだ。
「斯う改まると困る」
と堀尾君はお茶を飲み乾して、
「もう一杯」
と手間を取る。
「君は金のことを一切言わない男だったが、ヨク/\だね」
と奥田君は待ちもどかしがった。
「欲しそうに見えるのかい?」
「然うじゃない。一体金のある奴は金のことを言わないものだ。何うだい?」
「僕は無頓着で、有るなしに超越しているから、今まで一向話さなかったが、卒業と共に財産を分けて貰うことになっている」