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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「これから出かけるところですから、真の五分ばかりお話を承わりましょう」

と専務は胸間から時計を出して見入った。

「飛んだお邪魔を申上げます」

と堀尾君は又お辞儀をした。

「御用件は西本から承わっていますが、当社は官庁なぞと違って頗る劇務ですよ」

「はあ」

「それも最初の中は小僧にでも出来るような仕事をお願いするのですから、最高教育を受けた方には、正直の話、甚だお気の毒です」

「いや、何も修業でございますから、一生懸命になってやります」

「お身体は極くお丈夫のようですな?」

「はあ。頑健です」

「勤まる御自信がありますか?」

「はあ。及ばずながら、人一倍の努力をする決心です」

「それでは係のものを出しますから、御相談下さい」

「はあ」

「私はこれで失礼」

と専務は一つ頷いて、もう出て行ってしまった。大会社の重役が求職者を相手にしてはいられない。女婿から紹介があったから、特別で五分間面会してくれたのである。

堀尾君は係のものを待ち始めた時、予感があった。例の銓衡委員長が出て来るのではなかろうかと思った。係なればこそあの折銓衡の任に当ったのだ。あの男に相違ないと結論した刹那、戸が開いて現れたのは果してその痘痕面だった。