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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

上役

君の友人なら家賃はあのまゝにして置いて、隣りの奴をもう二円上げよう」

「ひどい家主だね」

「兎に角、その横町に十軒あるんだから、見て置き給え。何れでも気に入ったのを安く提供する」

と間瀬君は横暴な家主だった。

上役

或晩、堀尾君が例によって道子さんへ通信を認めているところへ、間瀬君が訪ねて来た。

「やあ」

「やっている/\」

「この間は失敬」

「僕こそ」

「さあ」

と堀尾君は喜んで請じた。

「暑いなあ、相変らず」

「此年は三十年ぶりの暑さだってじゃないか」

「そんなことが新聞に書いてあったね」

「毎年何十年ぶりさ」

「遣り切れないなあ、失敬するぜ」

と間瀬君は羽織を脱いだ。

「袴も取り給え」

「追々にやる」

「君は殊に暑がりだから、羽織袴じゃ苦しかろう」

「夏は郷里へ帰って裸体で暮すんだから、此年は実に骨だ。風流は寒いというけれど、養子は暑い」

「ハッハヽヽ」

「同情してくれ」

「いや、会社員も楽じゃないよ」

「暑いかい?」

「暑い寒いの問題じゃない」

「忙しいのか?」

「うむ。これってこともないが、時間に縛られるからね」

「僕も縛られているようなものだ」

「何うして?」

「妻は理解してくれるけれど、お母さんて人がナカ/\やかましい」