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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「これも一策だよ。友人を訪れゝば晩くなるものだという概念を妻の頭に植えつける。あゝ、好い息抜きをした」
と言って帰って行った。
堀尾君は○○紡績へ勤めてから一月になる。間瀬君が冷かした通り、見渡す限り上役ばかりだ。同輩が六七名いるけれど、春入ったのだから、数月の長がある。その中、安川君丈けは帝大の同級生だった。皆庶務課に机を並べて、見習という格だ。
「大勢取ったようだったが、これっきりかね?」
と堀尾君は安川君に訊いて見た。
「二十五人いたんだけれど、皆もう工場や支店へ廻ったんだよ」
「君達は?」
「残ったのさ」
「有望なのかい?」
「それが分らないんだよ。好いから本社に残されるという説もあれば、悪いからもう少時試すという説もある」
「兎に角、宜しく頼むよ。僕は新米の又新米だから」
「お互に力になろう。大学出は君と僕丈けで、余他は皆高商と私立だからね」
と安川君も同級生を得て喜んだ。堀尾君は初めて出仕した朝、例の銓衡委員長から二時間に亙って勤務上の注意を申渡されたので、
「あの痘痕面は一体何者だい?」
と確めて置く必要を認めた。
「人事課長だよ」
「ふうむ」
「鳧三平って利者だ」