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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

それでは」

「まあ、待ち給え」

「はあ」

「君は入ったばかりで会社の事情を能く知らないんだから、序にもう少し話そう」

「承わります」

「目下日本は欧洲戦争中の火事泥的景気に見放されて、何も彼もガラ落ちだ。実に危い。会社が毎日のように倒れる。こゝはビクともしないが、世帯が大きい丈けに、油断は大敵だ。それで極力緊縮政策を執ることになって、節約を励行している」

「はあ」

「然うかといって、君、俸給をへらす次第には行かないだろう?」

「はあ」

「お互に能率を下げないで、経常費を出来る丈け節約しようという申合せになったのさ」

「成程。御道理です」

と堀尾君も斯う打ち解けた調子で話しかけられると、和がざるを得ない。底意は悪くない人だと思った。

「例えば会社から諸君に支給する昼の弁当だね。従来三十銭だったのをこの春から二十五銭に下げた。本社支店工場を通じて約千名の社員だから、僅か五銭でも馬鹿にならない。一日五十円の月千五百円。年に一万八千円。何うだね? 君」

「大変なものですな」

「好況時代に識らず識らず膨脹しているんだから、緊縮の余地は充分ある。万事この遣口で行って、十五万節約して見給え。