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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
よく/\の因縁
事後承諾は無理だろうぜ」
「さあ」
「上役って奴は何処へ行ってもいるんだからね」
「見渡す限りか?」
「うむ。癪に障る度に喧嘩をして首になっていたんじゃ果しがないぜ」
「今回丈けはやりたい」
「仕方のない奴だなあ」
「鳧の畜生!」
と堀尾君は何うしても堪忍出来ない。
よく/\の因縁
上役に叱られた場合、下役は恐縮するに限る。
「何うも済みませんでした」
と云えば済むのである。これが一番手数がかゝらない安全策だから、有らゆる下役が毎日実行している。仮りに対等の議論で行くと考えて見る。勝ったところで元々だ。大骨折って漸く自分の地位を守ったに過ぎない。負ければ体面上自裁の必要に迫られる。次に又憤慨の余り辞表を叩きつけるとして見る。これは一寸溜飲が下る。
「痛快だ」
と第三者が褒めてくれる。しかし元来首を添えてやるのだから、決して悧巧な人のすることでない。非常に綺麗に負けたことになる。勤め向きは何うしても上役に分が好いような仕掛になっているから仕方がない。清水君はこの理を説いた。
「それじゃ長いものに巻かれろと言うんだね?」
と堀尾君は未だ不服だった。
「要するに然うさ。何の道、勝てっこないんだから」