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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「情けないなあ」

「世話をして貰ったばかりで問題を起したんじゃ西本先生にも済むまいぜ」

「それが一番困るんだ」

「兎に角、辞表丈けは思い止り給え」

「さあ」

「君が書かなくても、先方で取計らってくれるよ」

「何方にしても首がないのかい?」

「当り前さ」

「君は妙に鳧贔屓だね?」

「何と言われても、上役に食ってかゝることには賛成出来ない。愚挙だよ」

と清水君は極力反対を続けた。

堀尾君は一晩寝て起きたら、大分平静に戻った。憤激は脳細胞の疲労にもよる。よく眠ると自然落ちつく。そこへ朝食中に道子さんから手紙が着いたのも好い緩和剤になった。昨日は来なくて失望していたところだったから、殊に嬉しかった。

「親類へ行っていて一日御無沙汰致しました。申訳ありません。お手紙二日分唯今拝読致しました。云々」

と道子さんも二日分だから長い。一日分でも時折切手が二枚張ってある。堀尾君は不足税を取られたことがある。

「云々。私、一昨日の晩、清水さんや江口さんのお話を母に申上げましたのよ。母は昔流儀ですから、早い方なら苦情はございません。『お前は詰まりそんなことにはしませんか? 堀尾さんはもうお家を探していらっしゃるんですから』