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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と堀尾君はすべて初耳だった。越して来たばかりで、近所を一向知らない。

「夜分でも話しに来給え」

「有難うございます」

「何うだね? 仕事の方は」

「相変らずヘマばかりやっています」

「習うより慣れろさ。ワケはない。会社の仕事は学問と違う」

「はあ」

「大いにやるんだね。若い中は何も修業だ」

と鳧さんは何処までも上役らしかった。

その中に道子さんの着く日が来た。堀尾君は会社の帰りを東京駅へ廻った。道子さんは叔父も叔母も迎えに出ないように計らってくれた。

「待ちましたよ」

と堀尾君が言った。

「私も。オホヽ」

と道子さんはこぼれるばかりの笑顔だった。しかし雑沓の中で長話は出来ない。自動車が未だ貴重品の時代だったから人力車を頼んだ。現代ほどに愛人達が恵まれていない。各自荷物と合乗りで九段上の叔父さんの家へ向った。堀尾君も御無沙汰のお詫びながら上り込んだが、奥田君がいないから、早目に引き揚げた。

二人の間に日曜を指折り数える週間が続いた。その中に鞆では奥田君が結婚した。

「何うでしょう? もうソロ/\予定の行動を取りましょうか?」

と堀尾君が言った。

「存じませんわ」

「本当?」