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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
た。私達がしばらく話をしている間に、そこに来合わせた一人の百姓は、やはりここに居残った一人であった。彼は主人から私達に紹介されると幾度も私達の前に頭を下げて、こうして見舞った好意に対する感謝の言葉を連ねるのであった。その男は、五十を過ぎたかと思われるような人の好い顔に、意地も張りもなくしたような皺がいっぱいたたまれていた。
主人とその男と、山岡の間の話を聞きながら、私はあとからあとからと種々に尋ねてみたいと思うことを考え出しながら、一方にはまたもう何にも聞くには及ばないような気がして、どっちともつかない自分の心に焦れながら、気味わるく足にぬられた泥が、少しずつかわいてゆくのをこすり合わしていた。
風が出てきた。広い蘆の茂みのおもてを、波のように揺り動かして吹き渡る。日暮近くなった空は、だんだんに暗く曇って、寒さは骨までも滲み透るように身内に迫ってくる。
「せっかくお出でくださいましたのにあいにく留守で――」
気の毒そうにいう主人の声をあとに私達は帰りかけた。
「やはりその道を歩くより他に、道はないのでしょうか。」
私は来がけに歩いてきた道を指さして、分り切ったことを未練らしく聞いた。