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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

八

「みんな、毎日こんなひどい道を歩いちゃ、癪に障ってるんだろうね。」

山岡は後をふり向きながらいった。

「たまに歩いてこんなのを、毎日歩いちゃ本当にいやになるでしょうね。第一、私達ならすぐ病気になりますね。よくまあこんな処に十年も我慢していられること。」

といっているうちにも、一と足ずつにのめりそうになる体をもてあまして、幾度も私は立ち止まった。少し立ち止まっていると刺すように冷たい水に足の感覚を奪われて、上辷りのする泥の中にふみしめる力もない。下半身から伝わる寒気に体中の血は凍ってしまうかとばかりに縮み上がって、後にも先にも動く気力もなくなって、私はもう半泣きになりながら、山岡に励まされて僅かの処を長いことかかってようように水のない処まで来ると、そこからはSの家の前までは、細い道がずっと通っていた。

八

木立の中の屋敷はかなりな広さをもっている。一段高くなった隅に住居らしい一棟と、物置小屋らしい一棟とがそれより一段低く並んでいる。前は広い菜圃になっている。畑のまわりを鶏が歩きまわっている。他には人影も何にもない。取りつきの井戸端に下駄や泥まみれのステッキをおいて、家に近づいていった。