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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
でも、ただこうして来ただけで、余程いろんなことが分ったろう? Sがいればもっと委しくいろんなことがわかったのだろうけれど、この景色だけでも来た甲斐はあるね。」
「沢山だわ。この景色だの、彼のうちの模様だの、それだけで、もう何にも聞かなくてもいいような気になっちゃったの。」
「これで、町子ひとりだと、もっとよかったんだね。」
「沢山ですったら、これだけでも沢山すぎるくらいなのに。」
長い土手の道はいつか終わりに近づいていた。振り返ると、今沈んだばかりの太陽が、低く遙かな地平に近い空を、僅かに鈍い黄色に染めている。他は一体に、空も、地も、濃い夕暮の色に包まれている。すべての生気と物音をうばわれたこの区切られた地上は、たった一つの恵みである日の光さえ、今は失われてしまった。明日が来るまではここはさらに物凄い夜が来るのだ。黄昏れてくるにつけて、黙って歩いているうち、心の底から冷たくなるような、何ともいえない感じに誘われるので、道々私は精一杯の声で歌い出した。声は遮ぎるもののないままに、遠くに伝わってゆく。時々葦の間から、脅かされたように群れになった小鳥が、あわただしい羽音をたてて飛び出しては、直ぐまた降りてゆく。