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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

「夜が明けやしないかしら。」

「まだなかなかよ。」

それでも僕には、もう東の空がほんのりと白んできたように思えた。そして実際、不意に葦の茂みが無くなって、その高い堤防の上から、向うにぽつりぽつりと真白な花の咲いてる蓮田が見渡された時、振返ってみると、東の空の裾がぼーっと薄赤く染っていた。

「ほら。」

僕が立止って眺めたので、母も立止って眺めた。そして、ここらで一休みしようというので、僕と母とは露の冷たい草の上に坐った。東の空が色づいてきたというだけで、まだあたりはぼーっとした星月夜だった。

僕は何にも云うことがなくて、母の側に黙って屈んでいた。そして、葦の葉の長い隧道をくぐってきた間、母が一度も僕の手を引いてくれなかったことを、ぼんやり思い出していた。

それから僕はどうして母に別れて一人で家に帰ったか、さっぱり覚えていない。或は其処まで母について行ったのも、夢だったかも知れないような気さえする。それでも、夢にしては余りにはっきりしすぎている。その時のことが細かな点まで浮彫のように頭の中に浮んでくる。

果してそれが本当だったか夢だったか、僕は母に尋ねてみようと思ってるが、遠くにいる母にわざわざ手紙で問い合せるほどのことでもないので、今もってそのままになっている。