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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

その不満から、徐々に、絶望に似た憂苦がにじみ出してきた。

向うの連中が、春子に勘定を払って出て行った後、昌作も立ち上ろうとした。其処へふいに沢子が出て来た。その顔を見て昌作は、彼女の先刻の言葉を思い出した。彼は沈んだ声で云った。

「僕に話があるって、どんなことだい?」

「もういいのよ。」と沢子は落着いた調子で答えた。「先刻はお話するつもりだったけれど、よく考えてみると、自分でも分らなくなったから。」

昌作は彼女の顔をしげしげと見つめた。

「私ね、思ってることを口に出したり書いたりしようとすると、何だかはっきりしなくって、よく云えないわ。」

「そりゃ誰だってそうだろう。」

「そうかしら?」

沢子は卓の横手に坐った。昌作は彼女の絵画のことを云ってみようと思ったが、云った後で自分が益々陰鬱になりそうなのを感じた。それほどこだわってるのが我ながら不思議だった。彼はコニャックの杯をあけて、それをも一杯求めた。

どろりとした強烈な液体の杯を昌作の前に差出して、沢子は斜横の方に腰を下しながら、ふいに云いだした。

「あなたどちらにきめて?」

「え?」

「そら、九州の炭坑とかのこと。