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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

そして職人の稼ぎというものがどれほどのものか、どんなにつましい生活をしなければならないかということを藤七は語った。その話から又三郎が受けた感じは、かれらの生活の困難さではなくて、困難のなかにある生甲斐、困難にうち克ってゆく緊張の力づよさだった。武家の完全な消費生活では、厳しい規矩によって手足を縛られ、退屈と無気力に馴らされる、生活は保証されるが冒険もなければ夢も理想もない。又三郎は二十四になるけれども、その過去は単調な灰色の道がひとすじ坦々と延びているだけだ、それはこれから先も灰色に坦々と死ぬまで続くだろう、決して誇張ではない、彼は現実にそういう生涯をたくさん見て知っているのだ。

「おれの云うのは、毎日こうして酒を呑むことではないんだ」彼は老人に向って訴えるように云った、「……自分で稼ぐ暮し、自分のちからで生きてゆく暮し、どんなに苦しくとも、骨がおれても、自分の腕で妻子をやしなってゆく暮しがしたいんだ、ひと口に云えば、本当に生きてるという気持になってみたいんだ」

「そういうのを栄耀の餅の皮と云うのじゃあございませんか」

「そうだ、爺さんにはわからないかも知れない、あんまり違いすぎるからな」