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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

十

「まあお紋ちゃんじゃないの」

お紋もああと云いながら立った。その三人はお糸、お琴、およねといって、蔦萬にいたときいっしょに働いていた友だちであった。

十

三人は六阿弥陀まわりに来たのだという。どんなに懐かしかったろう、問いかけも返辞もいっしょくたになり、手を握ったり、叩かれたり、華やいだ笑いごえをたてて、暫くは語り飽かなかった。そのうちに、いちばん年嵩のお糸が、にわかに顔をひきしめて、「お紋ちゃん罪よ」と云いだした。

「いきなりなによ、なにが罪なの」

「あんな風に若さまを振るなんてあんまりだわ、あたし若さまの話を伺って泣かされてよ」

「若さま」お紋はふいに身を震わせた、「……あたしが若さまを振ったんですって」

「そうじゃないの、奥方になれないからって、事情があんな事情なら、そして若さまがあんなに真実な気持でいらっしゃるなら、お断りするにしても仕方があると思うわ、若さまは本当にお痩せになったことよお紋ちゃん」

「あんたはなんにも知らないのよ、若さまがどんな方か、どんなひどい方かということを、……痩せたのはあたしだわ」

「うそ、それはうそよ、うそだわお紋ちゃん、あたしすっかり伺ったのよ、若さまがお侍をやめて、町人になって、お紋ちゃんを貰うお積りだったことも、それがどうしても戸沢様の御家を継がなければならなくなったことも」