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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

四

又三郎はこう云いながら、とつぜんはげしい酔いを感じて頭を垂れた。

「……けれどもおれはやってみる、しょせん一生だ、土担ぎをしたって、今の暮しよりは張合がある、生きるんだ」

生きるんだと呻くように云いながら、又三郎はそこへ横になってしまった。

四

又三郎は繁しげ徳右衛門町を訪ねるようになった。たいてい午後から昏れじぶん迄なのでお紋とはかけ違うことが多かった、老人はすっかり気が合ったとみえ、足の痛風がやむとか腰が痛いとか云っては仕事を休み、又三郎の来るのを楽しみに待っているようだった。来ない日があると可笑しいほどしょげて、夕飯も喰べずに寝ることさえあった。

「またこんなにお預かりしたの、お祖父さん」留守に来て又三郎の置いてゆく金を見て、お紋は肚立たしげによくそう云った、「……一昨日のも、そのまえのもまだ手つかずじゃありませんか、お断りしなくちゃあいけませんよ」

「おまえは黙っていな、おれにゃあおれで考えがあるんだ」

「仕事を休んで若さまと呑む考えですか」

「そんなんじゃあねえ、若さまのことに就いてだ」藤七は或るときこう云った、「……おれが考えるには、若さまは遠からずお屋敷を出る、あんなに嫌っていらっしゃるんじゃあ勤まらねえ、この頃はお武家の武家嫌いが流行るけれど、若さまのはそんな上っ調子なものじゃあねえ、なにか深いわけ