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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

二

二

「だいぶおそくなりましたので、簡単に申上げてお暇を致します」丈右衛門は熟れた柿のように赭いてらてらした顔をひき緊め、まるで柱へ釘でも打ち込むような具合にこう云った、「……先頃もよくお話し申したように、お世継ぎの件は順調にはかどり居りまして、おそらく今年じゅうには公儀へお目見得の運びにも相成ろうかと心得ます、依ってこなたさまにも御修身の儀はもちろん、日常お出入りに当りましても軽がるしいお振舞いは固くお慎みあそばすよう」

「あのときも云いましたがね」又三郎は無遠慮に相手を遮った、「……私は初めからこの話はごめん蒙っているんですよ、壱岐さんにもちゃんと断わってあるし、なにしろ私なんぞに勤まることじゃあないんだから」

「御承知の如く馬場殿ご一派の眼が厳しゅうござります」と、丈右衛門はまるで又三郎の言葉など耳にもかけずに続けた、「……近頃はしばしばお独りで外出をあそばすことなど、彼等一派の口の端にのぼっております。かようなことは今後きっとお慎みあそばすよう、との上の御意にございます、必ず御違背これなきよう」

下屋敷の役人どもにも固く申付けて置くからと、感情も潤いもない調子で、云うだけ云うと丈右衛門は帰っていった。