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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

そして卒然とそこにいる男たちが憎くなった、ふしぎな感情である、今日までこの問題に就いてずいぶん考えもし苦しみもしたが、能登守正陟に対して「父」という気持をもったことはない、親子などという考えはまるっきり頭に浮ばなかった。それがいま痛いほど鮮やかな実感ではげしく心を緊めつけた。自分の言葉を信じない彼等の頑迷さ、あす父に対面しようとする子を、その直前に斬ろうとする非道、又三郎は生れて初めて火のような憎悪と忿怒に駆られた。

「そうすると貴公たちは、是が非でもここでおれを斬ろうというのだな」

「戸沢家六万八千石の社稷を守るためにです、あなた個人を斬るのではない、戸沢家の社稷の害となる存在を斬るのです」

「七人と一人では」と又三郎は頭を垂れて云った、「……とうていれるみちは」

そう云いかけた彼は、とつぜん人が違ったようにすばらしい呼吸で身を翻した、頭を垂れた上躰が右へ傾くとみえ、人々が誘われるようにそっちへ寄ったとたん、又三郎は右足で強く地を蹴り、あの肥えた小男に猛烈な躰当りをくれると、そのままつぶてのように道へ疾走していた。……生きるんだ、ここで死んではならない、生きるんだ、どんなことをしても。