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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
六
彼は殆んど叫びたいような気持でそう思いながら、歯をくいしばってけんめいに走った。
六
「若殿、若殿ではございませんか」
竪川の河岸へ出たとき、向うから喉をひき裂くような叫び声が聞えた。又三郎は水をあびたように踏み止まった、挾み討ちだと思ったのだ。後ろを見ると、そっちからもつい四五間のところへ追い迫っていた。だめだと思った、それで彼は刀を抜いた、そこへ揚羽鶴の家紋を印した提灯をかざして十四五人の侍たちが殺到し、ぐるっと又三郎をとり囲んだ、みんな足袋はだしに袴の股立を取り、襷、汗止という身拵えで、彼をとり囲むとすぐ、肩で息をしながら手に手に刀を抜いた。然しそれは又三郎を斬るためではなかった、中の一人がよく徹る声で、「小林、原田、沼野、貴公たち若殿のお供をしてゆけ、あとは我われがひきうけた、急げ」そう叫ぶなり、七八人は向うから来る人数を迎えて颯と左右にひらいた。――おれを救いに来た者たちだ、そうわかると同時に、又三郎は理由のわからない嫌悪感におそわれ、眼をつむるような気持で、四五人の侍たちに護られながらそこを去った。
小林新吾、沼野忠太夫という二人は近習番で、上屋敷にいたころ知っていた。