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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
九
たのに、あたしなんかどうだって、お祖父さんをこんなめにあわせるなんて、それだけでもひどいわ、それだけでも、――お祖父さん」
九
「ここを立退こう、お紋」藤七は呻くような声で云った、「……このまま此処にいれば、どんな難題をふっかけて来るかも知れねえ、おれもそろそろ閑静な処へひっこみたくなった、おまえだって処が変れば気が紛れるだろう、どっちにしても立退くほうがよかあないか」
「ええそうしましょう、誰も顔を知らない処へいって、お祖父さんと二人っきりで静かに暮しましょう、そうすれば、こんな厭なこともすぐ忘れるわ、そして……」
こうしてその明くる日、藤七はどこかへ出ていったが、午すぎに帰って来るとすぐ、「ゆく先が定ったから」とお紋をせきたてて家の中を片づけ始めた。これまでの帳場だった大茂の世話で、日暮里に畑を持つ「植伴」という鉢物作りの家へ、住込みで話がきまったのである。二人はその翌日、近所の人たちへも行先は告げないで、藤七が荷車を曳き、お紋が後を押して、風の冷たい薄ら日のなかを、引越していった。
移っていった先は道灌山の近くにあった、後ろは上野からの丘陵の起伏が延びているし、前は草原と田と雑木林がうちわたして、晴れた日には筑波や日光の山々が鮮やかに見える。