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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

……植伴は庭樹の畑もあるが、鉢に作る物を主にしていたので、そのための板小屋が五棟もあり、職人たちも十人からいた。藤七はその小頭という格で、別棟の住居を貰っておちついた。それは植木畑の中にあり、植伴の先代の隠居所だったという。六帖に四帖半だけのごくざっとした建物だが、井戸がすぐ脇にあるし、まわりは広く、樹にとりまかれているし、徳右衛門町の裏長屋に比べると、まるでお屋敷へでも住むような気持だった。

「日暮里といえばおまえ、市中から銭を遣って、わざわざ旦那方が遊山に来るところだ、この家だってみな、まるで大店の寮といっても恥ずかしくはねえぜ」

藤七には珍しく、当分のあいだ諄いほどそう云い云いした。四五日ばかりはお紋もそう思ったが、少しするとだんだんこころぼそくなり、殊に昏れ方には胸ぐるしいほどの淋しさにおそわれ始めた。本所にいれば物売りの声が次ぎつぎに来た、人の往き来も繁くなり、子供の騒ぎや家々の厨の音や、近所同志の高笑いや呼びあう声など、黄昏のものかなしいなかにも、しみいるような懐かしい賑やかさがあった。此処にはそういうものがまるで無かった。……来る日も来る日も風だった、筑波颪という乾いた刺すような木枯しが、遠い野づらをわたり林をゆすり、凍みた刈田や茶色になった草原をそよがせて、ひょうひょうと家の軒を吹きめぐっ