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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

出入りの人も多くなり、畑でも板小屋でも、絶えず活気のある掛け声や罵り笑う声が聞えた。お紋も忙しくなった、客が来れば茶菓の接待をするし、職人たちの八つや弁当の世話から、縫い繕いなどまですすんでひきうけた。夜になると、彼等はよく藤七の住居へ集まるようになり、もの日には酒肴を持ち寄って、賑やかに飲み更かすことも珍しくなくなった。そんなときには、お紋も片頬にえくぼをよらせて、楽しそうに燗をつけたり酌のまねをしたりする、起ち居や手もとが板についているから、しぜん彼等の眼について、若い者のなかには、心をかよわせるようなそぶりを示す者も出て来た。けれどもお紋が明るい顔をするのはそういうときだけで、ふだんは眉も曇り眼も暗く、はかばかしくは口もきかないふうな、沈んだようすにかえってしまう、したがって程を越えて馴れ馴れしくする者もなく、夏になり秋を迎えた。

このあたりは丘つづきに名所が多く、青雲寺の桜、諏訪の台の雪見寺、道灌山の月と虫、六あみだ四番の興楽寺、また尾久から荒川堤への枯野など、四季それぞれの眺めに富むため、市中から遊山に来る人が絶えなかった。……秋も末になった或る日、植木畑の片隅に作った菜畠で、お紋が笊を片手に菜を採っていると、すぐ脇の道を通りかかった三人づれの女たちが、びっくりするような声をあげて呼びかけた。