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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

二

」と、令二が、いいました。

「まあ、そんなことだろうね。」

さき子は、慨然として、

「ああ、お母さんは気の毒だ。私、早く口を見つけて働くわ。令二には、ちっともそんな気がないのだから、にくらしい!」

「そんなことをいうもんじゃありません。令二だって、考えていますよ。」

「おまえ、考えているのか?」

「僕は、絵かきだから、美しい絵を描くことしか考えていない。それが、いちばん正しく、また生きる道だと思っている。それよりほかのことは僕にはわからない。」

「ああ、どうしたら、そんなことがいえるだろう。私もそんな美しい夢が欲しいわ。お米がなくなってもかまわない、自分かってな気持ちになりたいものだ。」

日が傾くと、外よりは、家の内から、だんだん肌寒くなりました。母親とさき子は、いつしか茶の間を去って、夕飯の支度にかかり、令二だけが、まだ縁側に残っていました。

二

「令ちゃん、お母さんに心配かけちゃ、だめよ、すこし感心なさるようにしてあげなくちゃ。」

「姉さんは僕の顔を見ると、すぐいじめるのだな。僕にだって、すこしは認めてくれていい素質があるのだぜ。」

「このあいだ、東京駅へ叔母さんを見送りにいったとき、どうしたの? 聡さんがあいさつなさるのに、帽子も脱らずに頭を下げたって、お母さんは、顔を赤くしたと、おっしゃってよ。