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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

」

「僕も其の点には賛成するが、君は詩の領分と絵の領分との間に、レッシングの説明したような境界のある事を認めて居ないのかね。」

「全然認めて居ない。ラオコオンの趣旨には徹頭徹尾反対だ。」

「そいつは少し乱暴過ぎる。」

「まあ聞き給え。―――僕は眼で以て、一目に見渡す事の出来る美しさでなければ、即ち空間的に存在する色彩若くは形態の美でなければ、絵に画いたり文章に作ったりする値打ちはないと信じて居るんだ。そのうちでも最も美しいのは人間の肉体だ。思想と云うものはいかに立派でも見て感ずるものではない。だから思想に美と云うものが存在する筈はないのだ。」

「そうすると芸術家になるには、哲学を研究する必要はない訳だね。」

「無論の話さ。―――美は考えるものではない。一見して直に感ずる事の出来る、極めて簡単な手続きのものだ。而も其手続が簡単であればある程、美の効果は余計強烈である可き筈だ。君はペエタアのルネッサンスを読んだ事があるだろう。たしか彼の本の中に、凡ての芸術のうちで最も芸術的のものは音楽であると云うような意味が書いてあったろう。つまり音楽の与える快感ぐらい直截で簡明で手続きの要らないものはないと云うのだ。