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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

四

苟くも欧洲芸術の淵源たる希臘的精神の真髄を会得したものは、体育の如何に大切であるかを感ぜずには居られない。凡ての文学と凡ての芸術とは、悉く人間の肉体美から始まるのだと彼は云いました。肉体を軽んずる国民は、遂に偉大なる芸術を生む事が出来ない。―――斯くの如き見地から、彼は自分の機械体操を名づけて、希臘的訓練と称しました。此の訓練を経ない間は、如何なる天才も到底真の芸術家たり得る資格がないとさえ極言しました。私は彼の説を一応尤もだと思い、自分の体育を軽蔑したのは僻見であると悟りましたが、さりとて全然彼の肉体万能説に左袒する訳には行きませんでした。寧ろ彼の言葉は聊か奇矯に過ぎるだろうと考えました。

「肉体よりも思想が第一だ。偉大なる思想がなければ、偉大なる芸術は生れないのだ。」

私はこんな事を云って、岡村君に反対した事を覚えて居ます。

四

そう云う塩梅でだん/\年を経るに随い、岡村君と私とは同じ芸術に志しながら、同じ途を歩む事が出来ないように傾いて来ました。けれども二人が同一の人間でない限り、そうなるのは勿論自然の成り行きかも知れませんが、悲しい事に変化は二人の思想ばかりでなく、やがて二人の境遇に迄も及んで来たのです。