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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

九

』とか『形体の或る一部分のみを捕捉する。』とか云う法則は、僕の眼中にないと云う事だけを断って置く。」

岡村君の議論は最後に至って少しく苦しまぎれの気味がありました。「そんな理屈を云ったって何が実地に通用するものか。書けるものならば書いて見ろ。」こう思って、私は腹の中で嘲笑しました。

九

二年間ばかり、私は一生懸命読書に耽りましたが、丁度高等学校の三年生になった年からそろ/\詩だの小説だのに筆を染め出して、諸種の文学雑誌へ寄稿するようになりました。私の名前は直に文壇の人々から認められるようになり、新進作家のうちでも将来有望な一人として目指されました。それが当時の私に取ってはどんなに嬉しかったでしょうか。私はやがて自分の名前が、紅葉や一葉や、子規などゝ列んで、明治の文学史のページを飾るべき一員となるべき事を想像しました。私はすっかり図に乗って、感興の湧くまゝに無闇と沢山の創作を試みました。実際、筆を執らずには居られない程思想が滾々と流れ出るので、いくら書いても涸渇する事があろうなどとは思いも及ばなかったのです。

「己はとう/\岡村に勝ってやった。」

と、私は感ぜざるを得ませんでした。