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こんじきのし
金色の死
谷崎 潤一郎
「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页
岡村君が芸術に対して自己の執る可き態度を決定する事が出来ず非常に迷って居る有様は余処目にもよく判りました。話をすれば口先ばかりえらい事を云いながら、彼は何一つ其れを実行して見せた例がありません。そうかと云って………彼の嫌な哲学は勿論の事、文学に関する真面目な書物などを研究して居る様子もないのです。たゞ折々読んで居るのは仏蘭西物の詩だの小説だの、それでなければ美術に関する書籍ぐらいで就中絵画と彫刻の事だけは西洋は勿論印度支那日本の方面迄も一と通り暗んじて居たようでした。やゝともすれば「僕は絵かきになれないのが返す返すも残念だ。」と云って悶えて居ました。
「君は古来の画家のうちで誰が一番好きなんだ。」
嘗て私がこう云った時、
「日本では豊国、西洋ではロオトレク。」と答えました。
ロオトレクが好きだけあって、彼はチャリネが大好きでした。
「日本人の曲芸は体格が貧弱だから面白くないが、西洋人のチャリネは芝居よりももっと芸術的だ。僕はチャリネのような感じのする芸術を作りたい。」と、始終彼は云って居ました。
日を経るに随って、岡村君の言動はます/\奇矯になり、どうかすると真面目なのか冗談なのか分らないような事を云いました。