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こんじきのし
金色の死
谷崎 潤一郎
「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页
このような美しい国語を知って居る岡村君が、此頃俄に日本の文学を疎んじ出したのは無理のない事だと思いました。今になって考えて見れば、私は彼の朗読に依って、初めて外国語に対する趣味と理解力とを涵養せられたのに違いありません。
語学は兎に角として、不思議なのは彼の機械体操が好きな事でした。ベースボール、テニス、ボート、柔道、………一と通りの運動には大概手を出しましたが、彼の最も得意とするのは機械体操だったのです。学校の運動場で、彼が書物を読んで居なければ必ず鉄棒か並行棒にしなやかな体をからませて遊んで居るのです。子供の時分に小柄であった彼の肉体は、十三四の歳からめき/\と発達して来て、筋骨の逞ましい、身の丈の高い、優雅と壮健とを兼ね備えた青年になって居ました。彼の髪の毛は鬘を冠ったように黒く、彼の肌膚はいつも真白で日に焼けると云う事を知りませんでした。彼のスラリとした精悍な手足は、一見して身軽な運動に適して居る事を想わせました。彼は学校から帰って来ても、屡々自分の家の後庭に設けられた機械体操場にやって来て、一時間も二時間も独りで遊び興じながら、倒立ちをしたり、宙返りを打ったり、殆ど倦む事を知りませんでした。