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きんぎょはしんでいた

金魚は死んでいた

大下 宇陀児

「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

「五月五日の朝のうちですよ。金魚をよこせといつてきたのが、その前の日の夕方でしてね。どうしてだか、ひどくいそいでもつてこいつていうんでした。あいにくと、私のところには、利息代りになるほど金魚がいねえ。同業のところへ行つて、そこから持つていかなくちやならねえから、二日ばかり待つてくれといつたんですが、どうでも、いそいでもつてこいつていうんです。五月五日は、お節句で子供の日でしよう。ちよつとしたあてこみの日で、私は公園の方へ商売に行くつもりだつたんですが、しかたがない、方角ちがいのおやじのところへ、あのランチュウを持つて行つたというわけでさ」

老人が殺されたのは、その五日の夜だつたから、朝と夜との違いはあつても、同じ日に金魚屋が行つて老人に会つたという点が、なんとなく意味あり気に感じられる。

アリバイについて尋ねてみた。

すると金魚屋は、その頃の時刻だつたら、パチンコ屋にいたと答えたから、井口警部はその実否を、平松刑事に命じて確かめさせることにした。あの金魚好きな男に、金魚屋のことを調べさせるのも、ちよつと面白い、と思つただけのことである。

平松刑事は、ほかの方面での聞込みを漁りに出かけていたから、署へ帰つてすぐに、井口警部の前へ呼ばれた。