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きんぎょはしんでいた
金魚は死んでいた
大下 宇陀児
「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页
自供の内容は、ほとんどあらかじめ当局側が想像していたのと同じである。
が、その中で、とくに興味深く思われたのは、金魚鉢に関しての彼の述懐であつた。
「私は、医師として、老人の神経痛をみてやつたことがありそれが口をききあつたはじめです。庭の金魚鉢に、何かかくしていると気がついてからは、近所からも爪はじきされている老人に対し、ことさら親切にしてやつて、そのかくしているものが何かということを知るのに努めたのでした。ある時老人が口をすべらし、金の売買が自由になつた話をしたものだから、ハッキリとそれは金塊だろうということがわかつたわけです。――ウィスキーは、時々老人が、縁側へ出て一人きりで、楽しそうにチビチビとやつているのを見ていましたから、ぼたんの鉢を持つて行つた時、わざと半分飲みかけのやつを、とくべつに味がいいのだからといつて、いつしよに持つて行つておいてきました。庭で立話しをしたというのはほんとうで、その時に、金魚鉢をよく見ておいたら、まだ金魚がはいつていなくて、水がはつてあるだけだとわかつたのでしようけれど、実は私は金魚鉢には、いつもわざと眼を向けぬように心がけていました。