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きんぎょはしんでいた

金魚は死んでいた

大下 宇陀児

「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

しかし、問題はこの毒殺死体だつた。断じてまきぞえをくつた金魚ではない。だのに、人間の死体のことではなくて、死んだ金魚のことを先きにいつたから、いかにもそれは滑稽な感じがしたのであつた。

事件は五月六日の朝、発見された。

場所は、岡山市の郊外に近いM町で、被害者は、四年ほど前まで質屋をやつていて、かたわら高利貸しでもあつたそうだが、目下は表向き無職であつて、それもたつた一人きりで暮していた刈谷音吉という老人である。

発見者は、老人の家のすぐとなりに住んでいて、去年あたり開業した島本守という医学士だつたが、島本医師は、警察へ事件を通報すると同時に、大要次のごとく、その前後の事情を述べた。

「私は今朝急患があつて往診に出かけました。ところが往きにも帰りにも、老人の家の門が五寸ほど開きかかつていたから、へんなことだと思つたのです。近所でもよく知つていることですが、老人はかなりへんくつな人物です。ひどく用心ぶかくて、昼日中でも、門の内側に締りがしてあり、門柱の呼鈴を押さないと、門をあけてくれません。私は気になりました。となり同士だから、時々口をきき合う仲で、ことに一昨日は、私が丹精したぼたんの花が咲いたものですから、それを一鉢わけて持つて行つてやり、庭でちよつとのうち、立話をしたくらいです。