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きんぎょはしんでいた

金魚は死んでいた

大下 宇陀児

「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

とんでもねえことですよ。私はあのおやじを憎んでいたにや憎んでいた。しかし、殺すのだつたら、青酸加里なんてやさしい殺し方はしませんよ。てんびん棒かなんかで、殴り殺しにでもしなきや、腹の虫がいえねえんですからね――。が、まア、殺されやがつて、天罰というところでしよう。ありがてえと思います。旦那にも、お礼を言いてえと思いましてね」

「冗談じやないぜ。それじやまるで、ぼくが刈谷を、殺してやつたというふうに聞えるじやないか」

「ああ、そうか。こいつは私の言いそこないだ。が、ともかく、お礼のつもりで、いいものを持つてきましたよ。旦那は金魚が好きだそうですね。ランチュウの子がありまして、こいつは、うまく育てりや、大したものになるでしよう。いえ値段はいいです。さしあげるんですよ。餌は、当分のうち、卵の黄身にしてください。青酸加里だけは、禁物ということにしましてね」

藻まで添えて、数匹の仔魚を、親切にも持つてきてくれたのである。

人間の死体よりさきに、金魚の死んだことを気にした平松刑事は、有頂天になつて喜んで、その日は署を早帰りしてしまつた。

自宅には、金塊こそないけれど、でめきん、りゆうきん、しゆぶんきん、各種各様の金魚が飼つてある。