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きんぎょはしんでいた
金魚は死んでいた
大下 宇陀児
「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页
私は老人には、その時に会つたきりですけど、どうも気になつてなりません。それで、帰宅後三十分ほどしてから、老人の家へ行つて見たのですが、……」
そこは医師だから、すぐにもう毒死らしいと気がついたのだという。
その時、すでに体温がなかつた。
島本医師の意見でも、またあとできた市警の医師の意見でも死んだのは前日の夕方からかけて九時頃までの間らしい。大輪の花をつけたぼたんの鉢が、金魚鉢にほど近い庭石の上にのせてあつた。その花は、のめずり倒れた老人の死体を、笑つて見おろしているという形で、いささか人をぞつとさせるような妖気を漂わしている。
家の中は、昼間なのに、電灯がついていたが、これはむろん、事件発生当時からつけつぱなしになつていたのだろう。庭へ向いた縁ばな――金魚鉢から六尺ほどのへだたりがあつたが、その縁ばなにウィスキイの角びんと、九谷らしい盃が二つおいてあつた。一つの盃からは、ハッキリした被害者の指紋が検出されたが、他の一つには、何かでふいたものと見えて、全然指紋がついていない。しかしこれで大体の推測はついた。
すなわち老人は、多分縁ばなに、庭下駄をはいて腰をかけ誰かとウィスキイを飲んでいたものであろう。