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きんぎょはしんでいた
金魚は死んでいた
大下 宇陀児
「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页
その訊問の模様は、大略次の如きものであつた。
「あなたは五月五日の夜夕方から十二時頃まで、どこにいましたか」
「べつにどこへも行きませんわ。ちやんと自分のうち、青流亭のお帳場にいましたよ」
「ちがうでしよう。女中から板前まで調べてある。夕方出かけて、十二時ごろ、タクシーで帰つたことがわかつている」
「おやおや、たいそうくわしいんですこと。――じや、申しますわ。あたしは女手一つで、青流亭を切廻していますからね、人には言えぬ苦労もあるんですよ。ハッキリいうと、パトロンがあります。その、パトロンのところへ行つていたんですわ」
「パトロンというのが、殺された刈谷音吉じやないですか。こちらはあなたがあの老人のところへ、月に一回か二回、夜になつてから行くということをちやんと確かめてあるのですが」
「いやらしいこと、おつしやらないで下さい。刈谷さんは知つています。昔からの知合です。でも、あんなケチンボでへんくつな男に、どうして世話になんかなるものですか」
「すると刈谷老人のところへ月に一回か二回行く、その用件は何ですか」
「用件は……それは申せませんわ。ぜつたいにあたし、申しませんから」