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はちのき
鉢の木
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页
のであった。「幾ら思案してもしようがない」又左衛門はやがてそう呟いた、「……萩尾を娶ることと果し合とは別だ、勝負は男と男との意地だ、勝ってゆこう、すべてはそのあとのことだ」そう思いきる心の内には、ふしぎなほど勝負に対する自信があった、四郎兵衛に向って云ったことがあながち強がりでなかったばかりでなく、独りになって考えても負けはせぬかという疑いは些かもないのである、……久方ぶりで酒でも飲むか。そう思いかけたとき、二た間かなたの権之允の部屋で、声だかに誰かの話しているのが聞えた。それは四郎次という家僕の声だった。大阪へ使いにやったのが帰って来たとみえる、ひどくいきごんで話しているので、又左衛門はふと耳を澄ませた。
「……石田治部さまが、……伏見城、……鳥居彦右衛門さまと松平……」そんなきれぎれの言葉が二た間とおして聞えてくる、そのなかで鳥居彦右衛門という名が又左衛門をぎくりとさせた、……壱式四郎兵衛はもと鳥居元忠の家来だと聞いていた、それを思いだしたのである。かれは机上の鈴をとって振り、四郎次を呼べと命じた、若い家僕はまだ旅装も解かぬ