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はちのき
鉢の木
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页
五
「……権之允を呼べ」又左衛門はとつぜんそう云って立ちあがった、燭台の火がそれに煽られてゆらゆらとはためいた。
五
四郎兵衛はふしぎな感慨に耽っていた。夜半を過ぎてずいぶん経つのに、頭も眼も冴えて少しもねむけがおこらない、囁くような筧の水音や、遠い蛙のこえや、ときおり裏の叢林で寝鳥の騒ぎたつけはいなどが、しんかんと更けわたる夜のしじまを却ってあざやかに感じさせるようだ、……かれは又左衛門のことを考えていた、夕刻でかけてゆくときはあれほどの憎悪に身を震わせたのが、今はまるで跡かたもなく消えていた。憎悪や怒りが無くなったばかりでなく、どうかすると好意をもちはじめてさえいるようだった。もちろんほかに理由があるわけではない、とるに足らぬ柔弱者と思っていたのがそうではなく、ものごし態度もりっぱだし、云うことも堂々として歯切れがよい、ちからのある眼光、気品の高い挙措など、すべてが快いほど予想をはずれていた。……いいやつだ、そう思う気持を追いかけるように、あれなら萩尾をまかせてもよいという心が動いた、数刻まえまではまるで縁のない人間だった