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はちのき

鉢の木

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页

青空文庫

のである。――こうしてなにを待っているんだ、そのときもかれはおなじ自問自答を繰り返していた。なにを待っているんだ、このとおりすべてがゆきづまり、あらゆる期待が絶望だとわかっているのに、どうしてこのみじめな生命に区切りをつけないんだ。幾たび繰り返してもおなじところへおちるにきまっていて、しかも絶えず頭を去らない苦しい想いだった、ついには堪えられなくなって、手にした小刀を措き惘然と外へ眼をそらした。そこへ道のほうから妹がはいって来た、……家の中はもうかた明りで暗かったが、戸外は黄昏まえの鮮やかな光りが漲っていて、はいって来る萩尾の姿をあやしいほど美しく描きだしてみせた。

「唯今もどりました……」萩尾は兄の眼に気づいてそっと微笑しながら会釈をした、四郎兵衛はわれ知らず「ちょっとそこに立っていてごらん」と呼びかけた。萩尾はなにごとかという風に立ちどまった、光りのためだけではなく萩尾は美しかった、四郎兵衛はまるで初めて見るような眼つきで妹の姿を眺めやった。着ている帷子は洗い晒してもう地色もよくはわからない、帯はいろいろの布切を継ぎ合せたものだ、油もつけない