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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
裏は石垣そのままで、紙片など押し込むには便利だったが、雨の日は大騒ぎだった。教室の者たちは、来るたびに家といわずに箱といった。箱には客が絶えなかった。神父様のご光来を迎える日もあれば、物もらいが覗く日もあった。米国従軍司祭が来られて、「これが君の宮殿ですか」と問われた。遠い大学から教授の訪問を受けている最中に、戦災者に軍から贈り物です、といって古靴が届けられたりした。
山本君と浜里君とが復員してきた。二人は私の前にまず黙然と座った。一言口を切れば涙も出そうになっていた。
「先生、残念でごわした」
「ご苦労でした」
「わしらは残念でたまりまっせん。どうしてもこの仇は返さにゃならん。苦節十年、必ず勝ってみせます」
「あなた方は残念ですか」
「そうです。残念です」
「残念とか遺憾とかいうのは、勝てるはずの戦に敗れたとき、そうしてまたここに戦力が残っている場合に用いる言葉と思いますが」
「そうです。日本はまだ負けるほど弱ってはいなかったのです。まだ十分戦力があるのです」
「これはおかしい。日本は無条件降伏をしたではありませんか。一切の戦力を失ったと認めて敵の軍門に降ったではありませんか?」