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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
路は思いがけなく炎の屏風にさえぎられ、転ずれば倒木縦横に交じりて越すに由なし。ある時は吹き崩された石垣をよじ登り、ある時は板橋の吹き飛ばされたのも知らず患者もろとも溝にはまる。足蹠はすでに幾度か釘踏み抜いて一歩毎に痛みをおぼえ、膝頭はガラスに擦り切られてもんぺとくっついている。救護隊は医学専門部の高木部長を発見して収容する。石崎助教授、松尾教授を相次いで担ぎ込む。仮小屋もようやく呻き声に満ちてきた。谷薬局長の令嬢も重態だ。通りかかった保険の集金人がころがりこむ。二人の囚人も宿を求めた。
敵機は二回来た。ビラ弾のはじけるにぶい音がした。
夜半火勢はようやく衰えはじめた。死に果てたのか、諦めたのか、疲れて眠ったのか、叫びはまったく絶えて、天地寂として声なく、まことに厳粛なひとときである。げにさもありぬべし、まさにこの時刻東京大本営において天皇陛下は終戦の聖断を下したもうたのであった。地球の陸と海とを余す所なく舞台として展開された第二次世界大戦は、次第に高潮し、さらにいかなる波乱を巻き起こすやと気遣われていたが、突如原子爆弾の登場によってクライマックスに達し、ここににわかに終幕となったのである。