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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

「ええ、それに、昨夜妙なことがありましたの」

「妙なことって」

「先生の御注意で、寝室を洋館の二階に移しましたでしょう。これで、もう覗かれる心配はないと安心していたのですけれど、やっぱりあの人、覗いていた様ですの」

「どこからです」

「ガラス窓の外から」そして、静子はその時の怖かったことを思出した様に、目を大きく見開いて、ポツリポツリと話すのであった。「昨夜は十二時頃、ベッドに入ったのは入ったのですけれど、主人が帰らないものですから、心配で心配で、それに天井の高い洋室にたった一人でやすんでいますのが、怖くなって来て、妙に部屋の隅々が眺められるのです。窓のブラインドが、一つ丈けおり切っていないで、一尺ばかり下があいているので、そこから真暗な外の見えているのが、もう怖くって、怖いと思えば、余計その方へ眼が行って、しまいには、そこのガラスの向うに、ボンヤリ人の顔が見えて来るじゃありませんか」

「幻影じゃなかったのですか」

「少しの間で、直ぐ消えてしまいましたけれど、今でも私、見違いやなんかではなかったと思っていますわ。モジャモジャした髪の毛をガラスにピッタリくっつけて、うつむき気味になって、上目使いにじっと私の方を睨んでいたのが、まだ見える様ですわ」