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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

私の屋根裏で拾った金物が、若しその坐金にピッタリ一致するとしたら、それは何を意味するのだ。

「君、君」私はいきなり運転手に呼びかけた。「君の手袋を一寸見せてくれないか」

運転手は私の奇妙な言葉に、あっけにとられた様であったが、でも、車を徐行させながら、素直に両手の手袋をとって、私に手渡してくれた。見ると、一方の完全な方の飾釦の表面には、例のR・K・BROS・CO・という刻印まで、寸分違わず現われているのだ。私は愈々驚きを増し、一種の変てこな恐怖をさえ覚え始めた。

運転手は私に手袋を渡して置いて、見向きもせず車を進めている。そのよく太ったうしろ姿を眺めると、私はふとある妄想に襲われたのである。

「大江春泥……」

私は運転手に聞える程の声で、独言の様に云った。そして、運転手台の上に小さな鏡に映っている、彼の顔をじっと見つめたものであった。だが、それが私の馬鹿馬鹿しい妄想であったことは云うまでもない。鏡に映る運転手の表情は少しも変らなかったし、第一大江春泥が、そんなリュウパンみたいな真似をする男ではないのだ。だが、車が私の宿についた時、私は運転手に余分の賃銭を握らせて、こんな質問を始めた。