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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

うか。(ではそれが六郎氏であったとしたら、彼はなぜその大切な証拠品を、迂濶にも運転手などに与えたかとの御反問があるかも知れません。併し、それは後に述べます様に、彼は別段法律上の罪悪を犯してなどいなかったからです。変態好みの一種の遊戯をやっていたに過ぎなかったからです。ですから、手袋の釦がとれた所で、仮令それが天井に残されていた所で、彼にとっては何でもなかったのです。犯罪者の様に、この釦の取れたのは、若しや天井裏を歩いていた時ではなかったかしら。それが証拠になりはしないかしら。などと心配する必要は少しもなかったのです)

春泥の犯罪を否定すべき材料は、まだそればかりではありません。右に述べた日記帳、春泥の短篇集、新青年等の証拠品が、六郎氏の書斎の錠前つき本棚にあったこと、その錠前の鍵は一つしかなく、六郎氏が行住坐臥所持していたことは、それらの品が六郎氏の陰険な悪戯を証拠立てているというばかりではなく、一歩譲って、春泥が六郎氏に疑をかける為に、その品々を偽造し六郎氏の本棚へ入れて置いたと考えることさえ、全然不可能なのです。第一日記帳の偽造なぞ出来るものではありませんし、その本棚は六郎氏でなければ開けることも閉めることも出来なかったではありませんか。