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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

かようにして、六郎氏は自業自得、彼のあくどい病癖の為に、軒蛇腹から足を踏みはずし、塀にぶっつかって、致命傷を受け、その上隅田川に墜落し、流れと共に吾妻橋汽船発着所の便所の下へ漂いつき、とんだ死に恥をさらした訳であります。以上で本件に関する私の新解釈を大体陳述しました。一二申残したことを附加えますと、六郎氏の死体がどうして裸体にされていたかという疑問については、吾妻橋界隈は浮浪者、乞食、前科者の巣窟であって、溺死体が高価な衣類を着用していたなら(六郎氏はあの夜大島の袷に鹽瀬の羽織を重ね、白金の懐中時計を所持して居りました)深夜人なきを見て、それをはぎ取る位の無謀者は、ごろごろしていると申せば充分でありましょう。(註、この私の想像は、後に事実となって現れ、一人の浮浪人があげられたのだ)それから、静子が寝室にいて、何故六郎氏の墜落した物音を気づかなんだかという点は、その時彼女が極度の恐怖に、気も顛動していたこと、コンクリート作りの洋館のガラス窓が密閉されていたこと、窓から水面までの距離が非常に遠いこと、又仮令水音が聞えたとしても、隅田川は時々徹夜の泥舟などが通るので、その水棹の音と混同されたかも知れないこと、などを御一考願い度いと存じます。