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ようきなきゃく
陽気な客
山本 周五郎
「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页
仲井主筆はこう云ってぽろぽろと、……本当にぽろぽろと涙をこぼした。その幾粒かがコップの中の飲みかけの麦酒の上へ落ちこむのを眺めながら、おれはますます途方にくれ、さればこそますます狡猾を弄さずにはいられなかったわけなんだった。
――その晩は西の場末のほうにある板宿というところの、ごみごみした裏長屋の、仲井天青の家で泊った。どこをどうしてそこまで辿り着いたものか、……眼をさますと一つの夜具の中で彼といっしょに寝ていたわけさ。雨戸を閉めなかったので、障子の上のところに一尺ばかりの幅で日光がさしている。蠅が一匹どういうつもりか、しきりにその日の当っているところでこつんこつんと障子の紙に躰当りをくれている。おれは何となくロシヤの小説のなかに出てくる頭を壁へぶっつけて死にたいという言葉を思いだして、それを思いだした事とは別に関連もないんだが、ぐるっと部屋の中を眺めまわしなどした。……独りぐらしの中年の男の投げやりな部屋というほかには、今とりたててきみに話すような景色ではない、が、そのうちに壁際におつけてある机の上の安い瀬戸物のブック・エンドに挾まって、十四五冊のうすっぺらな雑誌が並んでいるのをみつけた。