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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

二

彼の戯曲を読んだり、彼に対する批評やゴシップをみたりした程度らしい、そうして彼の名がジャーナリズムから消えるのといっしょに、おれもすっかり忘れてしまった。……そうだ、すっかりだ、きれいに忘れてしまったものさ。くだらねえ、なんだ。アポロンの琴、ニムフの柔肌、肉と酒と踊りだ、ギリシア人が幸福だったのは知的桎梏から自由だったからさ。いいよ余計なことを云うな、まだ酔いはしない、おれを酔わしてくれるようなものはこの世にはない。冗談じゃねえ、おれはなこうみえても。……おれたちはみんな翰林院へはいるよりも養老院で死ぬことを誇りとしたもんだ。おまえなんぞは俗物だ、なっちゃいねえぞ、まあ飲め、少しばかり愉快になってきた。

二

――おれがあのとき東京を逃げだしたわけは云いたくないね。理由を云えばそこにはいろいろ複雑なこともあるが、恋愛問題などといっても単純に説明はつかない。……逃げだしたとも云えるし、放逐されたと云えば云えなくもないんだ。それで須磨の大村さんの家へころげこんで、ちょうど大村さんはオレゴンの支店長になってアメリカへいっていた留守のところさ。それだもんだからおれは留守番のようでもあり、また夫人の護衛役のような立場でもあればあれたんだが、おれとしてもそこまで品性を下げたくはなかった。