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ようきなきゃく
陽気な客
山本 周五郎
「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页
それ以上おれとしては眺めている訳にはいかなかった。おれはそっちへいった。そして仲井さんいきましょうと云いながら彼の腕を掴んで立たせようとした。すると社長はにやにやと笑いながらこう云った。
「礼が少のうてお気の毒やなあ」
その言葉と一種のにやにや笑いとがおれを唆しかけたんだ。おれは自分でも吃驚したんだが、かっとのぼせたみたようになって、
「礼はこっちからくれてやる」こう云ってちょび髭の頬ぺたをいやというほどはり倒してやった。……おれとしては今でも悪くないせりふだったと思うがどうだろうか。そういうばあい尋常なことではなかなか思うようなせりふは出ないものさ。しかし、すると天青がはね起きた。おれのはり倒す音がこんどは彼を唆しかけたんだろう、いきなり社長にとびかかり、押し倒して馬乗りになった。
「この野郎、なんだ、なんだ、この野郎」
吃り吃りこう喚きながら、彼は上からむやみに社長の胸をこづいた。昂奮しすぎてしまって気の利いたような罵詈も出ず、撲りつけるという考えもうかばないのらしい。ところで、そこへ、……あの貪欲と無恥と酷薄のかたまりであるヒステリイ女の妻君が、ひきつったような灰青い顔でとんで来た。