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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

三

――さて仲井語楼なんだが、これには驚いた。初めて社長に紹介されたとき、彼はねじり鉢巻をして椅子の上にあぐらをかいて、その椅子の右側に一升壜を置いて、そいつを湯呑み茶碗に注いで、ぐいぐい飲みながら原稿を書いていた。……実になんといったらいいか、要するにそんなふうに編集所にはぴったりし過ぎて却って不自然なくらい傍若無人なようすだった。

「ふん、君も東京の落人か、ふん」

そのとき彼はこう云ってにやっと笑った。いい顔なんだ、実にいい顔なんだ。ちかごろの里見の顔をもう少しばかりしけさせて苦痛と頽廃の薬味を加えればいいかもしれない。彫の深い、眼のぎろりとした、とにかくただものでない顔なんだ。……君も東京の落人か、ふん。こう云ってにやっと笑ったんだったが、そのときのぎろっとした眼とまっ白な歯とをおれは忘れることができない。

三

――おれは須磨の家から毎日その社へ通勤したさ。おまえなんぞは信じないだろうが、おれとすればそういうばあいには精勤なんだ、八時半には毎朝きちんと出社した。こういうことは文学精神とは根本的に違うんだ。……またたびと飾り文字を書いた喫茶店の両開きの扉をあけてはいる。