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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

三

「賭け試合をなさいましたのね」

「正直に云います、賭け試合をしました」

伊兵衛はまたおじぎをした。

「どうにもやりきれなかったもんだから、あんなことを聞くと悲しくって、どうしたって知らん顔をしてはいられませんからねえ、とにかくみんな困っているし、雨はやまないし、どんな気持かと思うと、もうじっとしていられなかったんです」

「賭け試合はもう決してなさらない約束でしたわ」

「そうです、もちろんです、しかしこれは自分の口腹のためじゃないんですからね、私は、ええ私もそれは少しは飲んだですけれども、少しよりは幾らか多いかもしれませんけれども、みんなあんなに喜んでいるんだし」

そしてもういちど彼はおじぎをした。

「――このとおりです、勘弁して下さい、もう決してしませんから、そしてどうかこれを、……勘弁する証拠に、ひと箸、ほんのひと箸でいいですから」

おたよは悲しそうに微笑しながら、筆を措いて立ちあがった。

三

明くる朝まだ暗いうちに、伊兵衛は古い蓑笠を借り、釣り竿と魚籠を持って宿を出た。城下町のほうへ三丁ばかりいったところに、間馬川という川があり、この近所での鮎の釣り場といわれていた。